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1971〜1973 ファースト・アルバム『THIN LIZZY』、わたしはこのアルバムを聴いて彼等のサウンドに興味を持ったのですが、当時聴いていたブリティッシュ・ロックとしては明らかに異質であり個性的でした。 アイルランドで育ったロック系ミュージシャンの人達は多かれ少なかれその根底に民族の伝統音楽であるケルト音楽を臭わせる部分を持っているのでしょうが、シン・リジーの音楽にはその部分が(特に初期)かなり強かったと言えるでしょう。 (伝統的な民族音楽はみんなで参加して歌うダンス系音楽か個人個人の物語を歌に乗せて語るとかといったタイプの物が殆どですが、ロック・ミュージックの世界では後者のバラッドタイプの流れを引き継ぐものが多い) フィルが(彼の生い立ちがそうさせたのか)感傷的な詩を書くことに長けていたことと、どこか森の奥深い静けさを感じさせるアイリッシュ・トラッドの音楽に包まれたファースト・アルバムとセカンド・アルバムは、わたしにとって愛聴盤に成るほどでは無かったのは確かでしたが、心の隅に留まる不思議な魅力を持っていました。 どちらもイギリスでは売れなかったのですが、アイルランドではセカンド・アルバムは好成績を残したようです。 その後、アイリッシュ・トラッドの"Whiskey In The Jar"をロック風にアレンジしてシングルとして発売("Whiskey In The Jar / Black Boys On The Corner")、これはアイルランドのヒット・チャートで1位、イギリスでも6位まで上がるヒットなり、漸くイギリスでも名が売れてきました。(このシングルが6位に成った'73年3月はスレイド(Slade)の"カモン!!"がヒットしていた時期で---後にHMバンドのクワイエット・ライオット(Quiet Riot)のカヴァーでヒット---グラム・ロック・ブームまっただ中でした) このロックアレンジによる曲がヒットしたことも関係してか、サード・アルバムに成る『VAGABONDS OF THE WESTERN WORLD(西洋無頼)』からはロック色がかなり強くなりました。そしてエリック・ベルのギター炸裂 "The Rocker" の様な格好良い素晴らしいロック・ナンバーも含まれていますが、他の曲もすべて印象深くてこれは愛聴盤と成りました。前二作にもあったアイリッシュ・フォーク風な流れを汲む曲としては"Little Girl in Bloom"、" A Song for While I'm Away"が有りますがこれもまた良いです。(ただ・・・邦題に成った"娘ざかりのお嬢さん"と"君に捧げる僕の歌"はパッとしないです) そしてこのアルバムから同じダブリン育ちでフィルの友人であるイラストレイター、ジム・フィッツパトリック(Jim Fitzpatrick)がアルバム・ジャケットのイラストを描くように成っています。 |
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4作目『NIGHT LIFE』このアルバムから英デッカwp離れて1969年設立のマイナーレーベルVertigoに移籍していますが、このVertigoはColosseumの『バレンタイン組曲』を最初に出した後、ユーライア・ヒープ、ロッド・ステュアート、ブラック・サバス、グラヴィー・トレインなどを紹介し短いながらもブリティッシュ・ロック興成に貢献しています。 前作までのギターリスト、エリック・ベルがヒット指向のバンドと気が合わず突如脱退、デッカ時代の終わりに一時ゲイリー・ムーアを迎えて2曲録音、その後の少しの期間ライヴも一緒に行うが、ゲイリーは残らず、オーディションでギタリストを募集。Scott Gorham、Brian Robertsonを加えてツイン・リード形態に変更、ロック色を強めていく形と成ります。 ゲイリー・ムーアは"Still In Love With You"にゲストの形で参加して弾いています。その"Still In Love With You"はバラードながら印象深い曲です。 『FIGHTING』 この5thアルバムに収められている"Wild One"(帰らぬおまえはワイルド・ワン)と言う曲こそ [わたしが抱くシン・リジーのROCKサウンド] 。 英国でもなく北欧でもないこの哀愁・叙情はアイルランド空気が満ち溢れている!何度聴いても心に染み入ってきます。 そして世界中にその名を馳せたヒット作『JAILBREAK』(邦題:脱獄)アメリカ・チャートでも18位まであがりました。。シングル発売された"Boys Are Back in Town"(ヤツらは町へ)もヒット。この曲は後にボン・ジョヴィもカバーしている。他にタイトル・チューンや"Emerald","Cowboy Song"も良いです。お気に入り満載ですね。LPジャケはモニター部が刳り抜きにに成っていました。 |
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'76年ヒット作『Jailbreak』のあと立て続けに出された『Johnny The Fox』(邦題:詐欺師ジョニー)はVartigo時代のシン・リジーのアルバムの中では地味な存在感は否めません。曲の質は揃っているのですが、飛び抜けた曲が無いためにわたしも繰り返して聴くことは無かったです。"Don't
Believe a Word"の相変わらずのフィルの歌いっぷりが印象に残りました。 『Remembering Part 1』はシン・リジーの知名度上昇に伴い、以前の在籍レーベル英デッカが組んだ編集物。目玉はデッカ時代のアルバム未収録だったヒットシングル"Whiskey in the Jar","Little Darlingが始めてLP発売された事でした。確かに"Whiskey in the Jar"が全英1位に成ったのも納得です。デッカでの最終シングル"Little Darling(A面)/Sitamoia(B面)"ではゲイリー・ムーアがゲスト扱いでなくメンバーとして参加して居ます。 '77年作『BAD REPUTATION』制作中にではブライアン・ロバートソンが途中脱退宣言、ゲストとしての扱いで数曲弾いていますがアルバム発表後直ぐに正式脱退。スコットが多重録音でギターを弾いた曲も有るそうです。ただ、このアルバムはフィルのヴォーカルが全面に出る曲が多く、ギターサウンドは控えめです。"Dancing in the Moonlight"など味のあるヴォーカルが聴けます。 翌年発売されたライヴアルバム『LIVE AND DANGEROUS』は、このアルバムは1976年11月から1977年初頭にかけてのいくつかのライヴから選曲・編集されて、1978年6月に発売されました。時はディスコ系ミュージック全盛時(ディスコ化したビージーズやドナ・サマー等がビッグ・セールスを記録していました)、シン・リジーのアルバムも前作『Bad Reputation』が全米チャート39位まで上がったのにこのライヴ盤は84位止まりでした。2枚組アルバムが結構出て居た時期なのですが、比較的に安かった米盤でもシン・リジーのは結構高い価格設定だった記憶が有ります。 アメリカでの評判に対しイギリスでは『Bad Reputation』が4位、『LIVE AND DANGEROUS』が2位でシン・リジーのアルバム中英国で最もヒットしたアルバムとなり、年度内ロックベストアルバムに選ばれ、更に1986年フィル没後以降フィルの評価再認識で売れ続けているアルバムに成っています。彼のヴォーカルが一番乗っていた時期の録音です。 |
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フィルと古くから親交が有り、今までにもアルバムにゲスト参加、ライヴでの代理プレイなど、何かとシン・リジーと密接な関係にあったGary Moore
ゲイリー・ムーア がメンバーの一員として参加、正式に発表された唯一のアルバムが1979年発表の『BLACK ROSE: A ROCK LEGEND』です。 このアルバムをシン・リジーのベストに推す人が多いです。私的には『JAILBREAK』が最も好きですが、改めて聴き直し見るとこちらも良いですね。ギターサウンド中心に聴くなら、『BLACK ROSE: A ROCK LEGEND』ですか。わたしはロックアルバムをギター中心で聴くことが結構ありまする...るるる。 ゲイリー・ムーアは激しく表に出ることなくバンドに溶け込むような音作りをしていますが、随所にやはり彼独特の表情豊かなギターが聴けます。"Toughest Street in Town"、"S & M"の曲間ソロ部分など今までには無かった部分で、オーバードライブやディストーションがかかればハード・ロックらしく成りますね。"Waiting for an Alibi"は初期のシン・リジーに良くあったタイプのメロにアイルランドの哀愁を感じる曲で良い曲です。ここでもゲイリーのギターが素晴らしい味付けをしています。 なお、この後のライヴツアー途中、ゲイリーはメンバー間のトラブルから中途失踪し、脱退していまして、予定されていた日本公演も代理のミッジ・ユーロでした。 同年『THE CONTINUING SAGA OF THE AGEING ORPHANS』(邦題:英雄伝説)という国内初のデッカ時代のベストアルバムが発売されました。一度イギリスのみでデッカ時代の編集物『Remembering Part 1』が出て居ましたが、こちらの特徴は"Things Ain't Working Out Down at the Farm","Sara","Slow Blues","Dublin" の4曲がオーヴァーダビングによりゲイリー・ムーアのギターを乗せた事にあります。 ゲイリーの失踪後、次のギターリストを模索中にフィルはソロ・アルバムを作ったりしているのですが、そのソロ・アルバムに参加したSnowy White スノウィー・ホワイトを正式なメンバーとして迎え、アルバム『CHINATOWN』を発表。スノウィーはピンク・フロイドでサイド・ギターを担当したりしていたギタリストです。全体的に似たようなタイプの曲ばかりで昔から印象薄かったのですが、また聴き直してみて、やはり同じ感想ですか・・・。ラストの"Hey You"は聴き物なのでを抜き出しておくと他は一曲一曲は悪くはないのですが、アルバム一枚通して何度も聴きたい気には成らないです。 |
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80年代に入り、シンリジーの音楽性にも若干の変化が表れています。『RENEGADE』日本盤では『反逆者』というタイトルが付けられていました。先ず一曲目"Angel
of Death" はモロヘヴィー・メタルです(タイトルもそれらしいですね)、良い曲です。三曲目『Pressure Will Blow』にしてやっと本来のシン・リジーらしさを味わうこと出来ます。但し7曲目"Fats"で一転またまたガラッと変わりジャズっぽく成りました。このアルバムにはキーボーディストのDarren
Wharton ダーレン・ワートンが参加して居ますがこの"Fats"での間奏で生ピアノを弾いていましてそれがジャズっぽい雰囲気をかもし出しています。良い曲です。しかしこうした曲調豊かな特色は受け入れられず、売れ行きは伸びず、フィルのドラッグ依存は更に激しくなり、スノーウィは脱退。 前作のトップを飾った"Angel of Death"の様なメタル系に活路を見いだそうとTygers of Pan Tangを脱退していたJohn Sykes ジョン・サイクスを迎え『THUNDER AND LIGHTNING』を発表。ただ、このアルバム制作中には「これをスタジオ録音のラストアルバムにして解散しよう」とほぼ取り決めが行われていたとのことです)トップ曲はさすがのタイトルチューンHM,"Thunder and Lightning"そしてジョン・サイクスも曲作りにかかわっている"Cold Sweat" はメタル・ファンも納得の疾走チューンです。 そして、シン・リジーとして最後のツアーを納めたライヴ盤『"LIFE" LIVE』が発売されました。最後のツアーだと意識して、最後の録音だと意識しての録音なのに、ジョン・サイクスのギターは終始これから伸びゆくバンドのように若々しく弾きまくりグイグイ引っ張って行っています。 スコット・ゴーハムも負けじと乗っています。古い時代の曲もまた新しい魅力が味わえます。このライヴアルバムには今までに在籍したギタリストがゲスト参加したのも話題に成りました。"Renegade"はスノーウィ・ホワイトが"The Rocker"ではゲイリー・ムーア、エリック・ベル、ブライアン・ロバートソンが揃い弾きで圧巻です。"The Rocker"はやはりエリック・ベルのギターが思い入れ深いです。 私的にはシン・リジーのライヴ盤は有名な『LIVE AND DANGEROUS』よりもこちらの方が好きなのです。 こうして正式に解散したシン・リジー、フィルはソロとして活動を始めますが、以前よりの薬物依存症が更に酷くなり、注射注入中に起こった感染症が原因で1986年1月4日、36歳でこの世を去りました。 |
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シン・リジー正式解散後、及びフィルの没後に幾つものベスト物・コンピレーションが発売されています。わたしも数種買っています。 『The Rocker』,『Whisky in the Jar』はデッカ時代のベスト盤、"Whiskey in the Jar"を聴くと野望に燃えていた若かりしの頃のフィルを思い描けるほどノスタルジックに成ってしまいます。 持っているシン・リジーのベストはデッカ時代の物ばかりで一枚はヴァーティゴ時代の物をと買ったのが『THE JAPANESE COMPILATION ALUBUM』表ジャケにも日本編集アルバムと書かれているようにフィルの生存時、彼が選曲をした曲で日本だけで'80年に発売されていた物です。'94年にCD化されて、更に1997年に再発されました。ここではよく聴いた"Wild One" が懐かしいです。 |
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2009年に成ってフィル在籍時のライヴ音源が正規発売されました、『STILL DANGERROUS』で、1977年10月20日のフィラデルフィアでの録音です。有名な『LIVE AND DANGEROUS』がかなりのオーヴァーダビングや編集をされていたのが語り継がれていたためか、今回は極力無編集での発売に拘ったそうです。(海賊版ではセット・リスト全曲入っているそうですが、正規版で10曲に成ったのは他の曲でプレイミスでもあるのでしょうか?)収録された曲のプレイは良いですね。"Massacre","Opium Trail"あたりはスコットとブライアンのツイン・ギタープレイが聴き物です。 |
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1980年9月に発売されたPhilip Lynottの初ソロ・アルバム。シン・リジーの『Black Rose』発売後のツアー途中、突然にゲイリー・ムーアに中途脱退され、次のギターリスト決定までの期間に録音された事に成ります。メンバーはスコット・ゴーハム、ブライアン・ダウニーとリジーの顔ぶれにプラスしてリード・ギターにMark Knopfler マーク・ノップラー、リズム・ギターにスノウィー・ホワイトが参加、また、RainbowやWild Horsesに在籍したJimmy Bainがベースでなくピアノで参加と顔ぶれはなかなかの物です。音の特徴はやはりマック・ノップラー独特のギターが目立ちDire Straitsに近いサウンドを感じます。 収録曲はどれも似通ったタイプで当時聴いて居た時代に印象に残った曲はなく、今回聴き直して見て"Girls"が一番気に入った曲でした。この曲はレゲエっぽい調子が目立ちますね。そういえばタイトル・チューン"Soho in Solo"もレゲエリズム。ここら辺りがマーク・ノップラーのギターと関係しているのでしょうか? ここでサイド・ギターを弾いていたスノウィーをシン・リジー次作の『Chainatown』の収録曲でも弾いて貰いそのままリジーの正式メンバーと成ったようです。初のソロ・アルバムにしては『Chainatown』と同様、特筆した出来の曲が無いためにやはり地味な印象でした。 |
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